The Myth 神話

THE MYTH 神話 [DVD]

THE MYTH 神話 [DVD]

<ネタバレあり>

DVDで。

唐突だが、あまり映画館には足を運ばない俺の中ではジャッキーといえば石丸博也である。小さい頃はジャッキー・チェンという中国人の役を石丸博也という役者さんが演じているのだと結構真剣に思っていたほどだ。ジャッキーが腕を振る時の風切り音や、飛び跳ねるごとに響くステップの音。これらを伴奏として一つの楽曲を歌うように石丸博也の音域の高いセリフまわしはピタリとはまり、時に滑稽に、時に息を切らせつつ見事にジャッキーの演技を補完してくれるのだ。木人拳のときの10年来の沈黙を破ったジャッキーの感極まるセリフも酔拳の修行のときの泣きを入れる情けない声も全て石丸博也無しではありえない。とにかくルパンといえば山田康夫、ドラえもんといえば大山のぶ代、ジャッキーといえば石丸博也なのだ。しかし、しかしである。今回の神話に関しては、ジャッキー役の名手石丸の声がどこか不自然に感じた。

先ず違和感を感じたのは冒頭、大群を率い、敵の将軍に高らかに口上を述べるシーンだ。険しいジャッキーの表情に反して声に重みが無く、歴戦の将軍たる格に欠けている。また、病床の皇帝に拝謁し、命令をもらわんとするシーンでも同様の違和感を感じた。声が上ずっていてずばり迫力に欠けているのだ。プロジェクトAで司令官に詰め寄ったあの迫力が明らかに減退しているのだ。しかし場面がかわり、ジャッキー演じる考古学者ジャックのパートになると往年のジャッキーとのシンクロ率の高さを感じさせてくれる場面もある。ゴキブリホイホイのような粘着の床で追っ手をかわす時のシーン、必死のアクションの合間に挟まれるおどけたセリフなどはまさに往時のものだ。少しほっとしたが、同時に俺の中に小さな不安ができた。

小さい頃、画面狭しと飛び回るジャッキーの勇姿に心躍らせながらもたまに不安になったものだ。いつまでこのアクションを見ることができるのだろう、と。それから20年、ジャッキーは身体を鍛え、若さを保ち、現役で未だに身体を張ったアクションをぶちかまして俺の心を揺らしてくれている。しかしその一方で、ジャッキーと言えばこの人しかいない、と、俺が全幅の信頼を置く石丸さんはジャッキーの表現を完璧に補完するには衰え始めているのではないだろうか。

映画の内容ははっきりいってひどいものだ。話はわかりにくいし、必死でストーリーについていっても途中で破綻する。結局ジャッキーの見る夢の謎解きがメインなのか時代を超えたラブストーリーがメインなのか、見終わった後もいまいちピントを絞りきれない。はっきりいってこんな駄作でジャッキーをフィーチャーせんで欲しい。しかしそれでもなお個人的には、世界最高のアクションスターであり、50にして現役のジャッキーの新しいアクションを見ることだけでも価値があった。小さい頃魅了されてから20年以上のときが流れ、それでも未だに衰えないジャッキーの体術や徹底的に魅せることにこだわったアクションが今なお見ることができる。その事実だけでも俺なんかは涙ものなのである。ただそれだけに石丸博也の今回の違和感が気になる。単に失敗だったのか、衰え始めているのか。同時に幼い頃感じた、いつまでジャッキーの活躍を見ることができるのだろうという不安が再び思い出されてしまった。そう遠くない未来、石丸のみならずジャッキーにも"その時"は確実に近づいているのだ。なんて残酷な話だ。ああ、ジャッキー、願わくばいつまでもあなたが現役でありますように。願わくば、いつまでもその時が来ないで欲しい。