天龍八部

天龍八部〈第1巻〉剣仙伝説

天龍八部〈第1巻〉剣仙伝説

宋代末期の中国を舞台に運命に翻弄される若者達を描く金庸作中では異色の群像劇。全体的に中だるみが少なくぶっちぎりで読みきってしまえる面白さだった。

金庸作品には共通するいくつかの魅力がある。その魅力の一つは間違いなく「義」である。この天龍八部の作中では主役の二人が飲み屋で意気投合し、義兄弟の契りを交わす。義兄弟とは生死を共にする重い約定であり、実際この二人は互いのピンチに命がけで奮戦する。金庸小説はそんな痛快な好漢たちが目白押しだ。そんな簡単に兄弟になるんかいな?とあきれることも多々ある反面、得がたい絆をいともあっさりと結んでしまう主人公たちに憧れと敬意を抱かずにはいられない。そして、義を原動力として奮迅の活躍をする英雄好漢たちに胸のすく思いをさせられる。

本作で特に面白いのは間違いなく蕭峯(しょうほう)のパートだ。この蕭峯は本当にいいキャラだ。稀代の使い手であり、人望も厚く、性格も豪快で気持ちがいい。間違いなく金庸作中1,2を争う好漢で、はっきりいって抱かれてもいい、いや、抱かれたい。そんな蕭峯がとある理由から組織を追われ、さらには無実の罪を着せられ、追い詰められて荒野を独りさまようくだりは圧巻で、早く次のページが読みたくて悶絶する。また、金庸作中最悪のヒロイン阿紫(あし)の存在も見所である。

☆5つ