ブレイブストーリー/宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー (下) (角川文庫)

ブレイブ・ストーリー (下) (角川文庫)

<ネタバレ注意>

俺にとっての初宮部みゆき。これまで色んな評判を聞き、気になってはいたものの、なぜか食指の動かなかった作家である。だってどれも分厚いんだよ!無学な僕チンにはちょっち厳しいんですよ!てなわけで、最近話題になっていて、内容もわりと読みやすそうな本作にチャレンジ。上中下の文庫3巻を1ヶ月ほどかけて読破した。以下ネタバレ含みます。

主人公ワタルの住む現実世界の登場人物たちは皆平凡な人たちで、ワタルが幻界に旅立つ動機となる両親の離婚話などは物語の大事なポイントではあるが現実にありふれたエピソードである。対して第二部にあたる幻界の描写は猫や鳥や爬虫類などの姿をした異形の住人たちが登場したりと想像力を駆使したもので、一見対照的に見える。しかしながら現実離れした登場人物たちが織り成すエピソードは、人種差別や愛憎劇などやはり現実の世界によくあることで、それゆえにキャラクターにリアリティを感じ、物語に引き込まれてしまう。なんというか、人物描写が巧みなのだ。この辺が宮部みゆきのすごさなのだろうか。また、物語は小学生のワタルの目を通して語られるので、文体や物事の切り口がどことなく優しくて心地よい。

宮部みゆきは割とゲームが好きなのだろうか?道を指し示す魔法使いの老人、旅の目的を果たすために必要な5つの宝玉、世俗を離れてひっそりとくらすドラゴン達、そして願いをかなえてくれるという女神の塔。ファンタジー色満載の幻界編ではいつかどこかでプレイしたRPGそのままの話が展開していく(宿屋で事件に巻き込まれるくだりなんかはまさしくそうだ)。まあそんなRPGの定番よろしく、当然ながら宝玉集めのようないくつかのクエストのクリアを積み重ねることで物語が進んでいくのだが、一つ一つのクエストが物語の主旨から離れるような書かれ方をしている個所もあり、途中やや中だるみした感もある。しかし物語は後半にさしかかると徐々に加速をはじめ、終盤には怒涛の展開を見せる。前半で丁寧に、そして巧妙にちりばめられた数々の伏線が見る見る内に収斂していく様は圧巻である。

最後にワタルは自らに突きつけられた残酷な運命を変える力を手にする。それは前半で読者が想像するものとは少し違うかもしれない。しかし、読み進めていく内に、この物語の結末はそれしかないだろうと予感させるような、少年漫画の王道をいくような、そんなラストだ。俺は宮部みゆきという作家のことををあまりよく知らないのだが、この人は人間の持つ力を強く信じている人なのではないだろうか。そう感じさせられるような、そんなラストだ。結構長くてしんどいので、誰にでもおすすめはできないが、活字馴れしてる人やファンタジー好きな人は話題性からも一読の価値はあるだろう。読後にはそれなりの満足感があった。

・・・しかしなあ、長いんだよ、長い。最初の展開が遅すぎて、いや、小さなエピソードを織り交ぜて巧みに人物のキャラクター付けを行っていく手腕はさすがだが、それでもじれてくるんだよ。早く幻界行って魔物やら竜やらバッタバッタ倒せって!ジャンプならワタルが幻界に旅立ったあたりで10週打ち切り第一部完、宮部先生の次回作にご期待くださいってなもんなのである。