新進亭@京都2

昨日の続き

その後新進亭には京都にいた頃ちょくちょく通った。京都を離れ、山口へ行くことになったとき、京都で食った最後のメシは新進亭だった。関西に戻ってきたとき、すぐさま食いにはいけなかったが、それでも久々に訪れて食った白味噌の変わらない味にはほっとしたもんだ。新進亭にはもちろん他のメニューもあるが、出会ってから10年、俺はずっと白味噌一本である。

食べ歩きをして10年、ガチのラヲタみたいに年間何百杯も食ったわけではないが、それでもかなりのラーメンを食ってきた。北は北海道の名店から南は鹿児島の老舗まで、それこそいろんなラーメンを食った。旨い店はいくらでもあったし、感動する味にもいくつか巡り合った。大好きになった店も何軒かある。それでも俺の中でのチャンピオンは新進亭である。これはもう、思い入れというスパイスが入ってしまっているからどうしようもない。この日2年ぶりで白味噌を食ったときも改めてその旨さを再確認した。いつ行っても食いたいメニューをちゃんと出してくれる。素晴らしいことではないか。

久々の幸福感に包まれながら、最近のラーメン事情について漠然と感じていた思いが首をもたげてきた。なんつーか、小難しいなあ。裏だの表だの、どこそこ会員限定だの、昼限定だの、ややこしくてちょっとなあ。そんでもって軽いんだよなあ。軽い。ご当地だのご当人だの、和風の次はこってり、鶏塩だのプレミアムだの。食べたくなったときにはもう次の流行りもんがはばをきかせてる。ちょっと前に誉めそやされてた店やメニューが、いざ食べようって時にはもうつぶれたり無くなってたり。なんやねんこれ。俺だってラーメン好きのはしくれだ。旨いと評判のメニューには興味がないわけじゃないし、機会があれば食ってみたい。でも、誰の意思によってかは知らんが(多分なんとなくの潮流だろうが)、どうも次から次にめまぐるしく変わるブームにはなあ、ついていけん。軽いんだよ。軽い。だいたい旨いもんになんではやりすたりがあるんだ?

俺はちょっとドンくさいタイプのラーメン好きだと、我ながら思う。店主と仲良くなって秘密のメニューを食わしてもらったりどこぞのサイトの会員となってその特典に浴して限定メニューを喰らったりと、ラーメンに対する見識を広めようと思えばいくらでも広めることはできるだろう。そんな楽しみ方、ラーメンとの関わり方を他人がする分には否定しない。限定などのお冠の付いたうまそうなラーメンの記事を見るにつけ、むしろうらやましいと思うことも有る。しかしなあ、俺にはできんのだよ。そういうのん。俺が考えるラーメンは、もっとシンプルなもんなんだよ。そこに辿り着くまでにいくつもステップを踏まないといけないような、そんな小難しいもんじゃないんだよ。食いたいと思ったときには、その店に行きさえすればちゃんと食える、そんな安心感にも似た敷居の低い食いもんなんだよ。そんな旨いもんが気安く食えるってところが俺にとってのラーメンの魅力なんだよ。

新進亭はあまりネット上で話題にはならない。このことが昔は不満だった。自分の大好きな店がさほど取り沙汰されず、一方でブームに乗って明らかに不相応な露出を続ける店があることが我慢できなかった。だから自分でラーメンサイトを作り、褒めちぎったりもしたものだ。しかしネットで評価を受けることなど、べつにうんこのカスほども価値の無いことだと、年々そう思うようになってきた。コショウやもやしは不要だとか、無化調だとか一等小麦だとか、丼の底の骨粉だとかこだわりの塩だとか、この店はそんなシャラくさいトレンドの潮流の外側にいる。あるのはただ、いつきても変わらず旨い白味噌だけだ。誰にでも門戸の開かれたこの味だけだ。そして、その白味噌を食いにくる地元の客でこの店はいつも賑わっているのだ。それで十分ではないか。ネットの評価がなんだというのだ。こんな世界の端っこのブログで俺がこんなキチガイじみた偏愛振りを垂れ流すことすらも、この店にとっては無価値だ。

この店がある限り、いや、この世から消滅してしまっても、俺はこの店とかかわっていくことだろう。若い頃夢中になって食った味として貴重な青春の1ページに刻み、忘れることはないだろう。10年も俺の中のチャンピオンだった店である。麺が変わろうがスープの出来が悪くなろうが味が落ちようが、ずっとこの店が俺の一番である。思い入れってのはそういうもんだ。ちょっとやそっとで覚めるもんではない。

トレンドを追い求める向きのラーメンマニアには、この店で感じるものは少ないだろう。もし新進亭をまだ食べたことが無くて、二条麩屋町付近で唐突にラーメンが食いたくなったとして、キアヌリーブスもお忍びでやってきたとかいう怪しげな週刊誌の黄ばんだ記事に興味をそそられたとして、どうかこの店は黙って通り過ぎてほしい。あんたらの求めるものはこの店には無い。近くの高倉二条や○竹にでも行ってくれ。