タイタニック

機会あってDVDを借りる。今更ながら実は初見なのである。



「あとどれくらいもつ?」
「一時間です・・・」

船長と船員のこの会話からきっちり1時間かけて、タイタニックは沈んでいく。3時間の尺の3分の1は船が沈みゆく様の描写である。この間主要な人物たちの目線に次から次へと移り変わって、死を目前にした船客達の様々なドラマが交錯する。このドラマの一つ一つが重なって視聴者は時に悲しみ、時に不安を抱き、時に怒り、少しずつ乗客との共感を強め、絶望感を募らせていく。このようなメリハリの効いた構成はさすがだが、しかし個人的にはこの描写はまだまだキレイ過ぎると感じた。

死を前にして人はあの程度の取り乱しようでは済まないはずだ。ましてや死を前にしているのは個人ではなく群集である。感情は共鳴し、増幅し、巨大なエネルギーとなって発現するのが群集心理というものだろう。ならばどんなことをしてでも生き延びようとする人々の醜いまでの剥き出しの自我があらゆるパニックを生み出すのではないだろうか。例えば暴走しようとする3等客を抑えようとして発砲した警官が自らにも銃口を向けて自殺するシーン。手をこまねいていては死ぬしかないという局面では銃弾の1発や2発で暴動は収まらない。あるいは女子供を優先して救命ボートに乗せるシーン。あのボートの内のいくつかは助かりたい一心の男たちに乗っ取られてもおかしくはないだろう。我先にと限られたボートを奪い合い、いくつかのボートは使えなくなり、それでもパニックを起こした船客たちは収まることはなく、自我を失いながら暴走を続けていく。そんな悲劇の果てにこそ、ローズとジャックが必死になって互いの命を守ろうとする行いがより輝きをますのではないだろうか。

最後にジャックの死に決着をつけた点はよかったと思う。青く冷たい躯と化したジャックが暗い海の底深くにゆっくりと沈んでいくシーンは美しくすらあった。凡作ならジャックの生死は作中明らかとならず、どこかで生きているに違いないなどと含ませた陳腐な終わり方もありえただろう。ただ、一番最後のローズの回想は蛇足だった。

総じて3時間の時間は長く感じず、大ヒットしたのも頷ける。物語の邪魔をしない洗練された音楽や文句無く美しい映像、ローズのおっぱいなどだけでも見る価値はあるだろう。

・・・すいません、石を投げないで下さい。