ライフ・イズ・ビューティフル

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]

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<ネタバレ注意>

ツタヤで「泣きたいときに見る映画」などといかにもヌルそうなコーナーに置いてあったのを借りて見た。だめだ。まんまとやられてしまった。
色々と魅力の多い映画ではあるが、特に脚本の緻密さとテンポの良さには脱帽。おしゃべりでお調子者の主人公グイドは偶然知り合ったドーラに恋心を抱き、アプローチをかける。この間グイドは友人から"強く信じれば叶う" という半ば与太話めいた話を聞き、自らもここぞというときは強く念じるようになる。これは後に物語を破綻から救う重要な伏線となるのだがそれはまた後の話として、ここにグイドの巧みな話術と調子の良い性格が絡み合い、グイドにとって好ましい偶然を連発させる(しかもその偶然全てに伏線が張られている!)。やがてグイドは意中の人ドーラと結ばれ、息子ジョゼを設け、幸せな生活を送り始めるのである。ここまでの前半部でクスクスと笑いをもらしながら観客は理解していくことになるだろう。ああこれはそういう映画なんだなと。そう、ご都合主義的に話が進む映画なのだと。こうしてこの映画を鑑賞する際に求められる現実味のさじ加減といったものが観客の中でチューニングされる。うーん、上手いなあ。
コメディよろしく面白おかしく進んでいく前半部分から一転し、後半グイドの一家はユダヤ人差別のため強制収容所に連行され、苦難の日々が始まる。グイドはジョゼを不安に陥れないため、「これはゲームだ。一等賞には本物の戦車が与えられるんだ」と嘘をつく。前半で印象付けられたグイドのお調子者で話術に長けているという天分はここから遺憾なく発揮され、最後までジョゼを守り抜き、ドーラを元気づける。この間も物語は少しのコミカルさをスパイスにご都合主義のオンパレードで進んでいくのだが、前半の中で見事にチューニングされている"現実味のさじ加減"により、少しもしらけることなく物語に入り込んでしまう。考えれば考えるほど周到な仕掛けだ。素晴らしい。
ラストのシーンは「いくらなんでもそんな都合よくいくかい!」と叫びたくなる人もいるかもしれない。そんななご都合主義の権化のようなラストだが、個人的には"現実味のさじ加減"において最大限許容される範囲内だと思う。むしろこれこそがグイドの愛情の最大の具現であり、"強く信じれば叶う" という伏線が最高に輝く瞬間なのではないだろうか。
最後にジョゼは叫ぶ。
「母さん、勝ったよ、僕達はゲームに勝ったんだ!」
見る者は叫ばずにいられない。そうだよ、ジョゼ、君達は勝ったんだ!お父さんはゲームに勝ったんだよ!家族を守り抜くというゲームに(号泣)!
グイドはこのゲームの勝利を最後まで信じぬいた。だからこそ、最後の奇跡が起こったのだ。この感動的なラストには圧倒的な説得力がある。

安直に人を死なせとけば感動するだろ的なあざとい駄作とは明らかに一線を画す作品。参りました。